河口には羽田空港がある。旅客機が行き交う空の下で釣人が川面に釣糸を垂れる。そんな風景から水野の旅が始まった。
神奈川県川崎市に住む山崎充哲(ヤマサキミツアキ)さんは、川崎河川漁業協同組合に所属し多摩川を見守ってきた。川の環境保全はもとより、地域の小学校に出向いて水難事故防止のレクチャーも行っている。多摩川に捨てられる魚たちの里親を見つけるための「お魚ポスト」も立ち上げた。水野は大雨の後、河原に出来る巨大な水辺で山崎さんと一緒に魚獲りをする。鯉、フナ、絶滅危惧種のクロメダカに出会う。そして意外な魚が海から多摩川にのぼっている事実を知る。
かつて宿場町として栄えた府中市。水野は川漁師をしていた横田光夫さんに投網の手ほどきを受ける。日没直前、投網に多摩川の鮎が掛かった。スマートな体型の多摩川の鮎に水野はしばし心を奪われる。
多摩川中流域の羽村市にある羽村堰は江戸時代の土木技術が活かされている。支柱の間に渡された丸太は洪水が起こりそうになると取り払われ、水と一緒に流される。堰き止められた水は用水路に導かれ、東京都民の水として利用される。
山梨県小菅村を流れる小菅川(コスゲガワ)は多摩川の支流だ。透き通った流れを箱メガネで覗くと魚体の斑紋が鮮やかなヤマメがいた。多摩川の上流に美しい天然魚がいることに水野は驚きを隠せない。
多摩川は、山梨県丹波山村に入ると丹波川(タバガワ)と名前を変える。周囲の山林は東京都水道局が管理する水源林だ。複層林という世代の異なる木からなる人工林が多摩川の水を育んでいる。河口から源流へと多摩川を遡る水野は大都会を流れる多摩川の意外な素顔に出会う。