大阪出身の戦場ジャーナリスト、五十嵐哲郎さんは、元NHK報道ディレクターという異色の経歴の持ち主。
戦争や平和をテーマにしたNHKスペシャルなどを手掛け、数々の賞を獲得した敏腕ディレクターだったが、
2022年、「戦争のリアル」を取材するフリーランスとなるため退職。以降、ウクライナへ何度も足を運んできた。


現地にあったのは、目を背けたくなる過酷な現実。
爆散した建物、遺体の山、泣き叫ぶ子供たち。
自身がミサイルやドローン爆撃の危険にさらされることもあった。




その取材はNHKやキー局、雑誌などで発表され高い評価を受けるが…。
日本に帰国した後も、バイクやエアコンの室外機の音に怯え、ふとした臭いが戦場の光景をフラッシュバックさせる
PTSD=心的外傷後ストレス障害に似た症状に苦しむように。
さらに世間のウクライナへの関心の薄れとともに、取材記事を発表する場も失っていく―。


転機となったのが、今年発表したとある記事。
「音楽家」と呼ばれた一人の中年兵士の、出会いと別れ、家族の思いなどを綴った内容だった。
当時、4万人にも上るとされた戦死者数の中で、たった一人の人生を見つめた記事は、
ただ前線の出来事や悲惨さを伝えることが多い戦場ジャーナリズムの中では異色。
多くの読者の心に響き、ウクライナを支援する、新たな動きにもつながり始めた。


戦後80年を迎え、戦中世代が減り、次第に薄れゆく「戦争のリアル」。
誰かが見に行かなければ、決して知ることはできない。
戦場の過酷な現実を追い続ける、戦場ジャーナリストの使命と葛藤を見つめる。